好き勝手に八重山関連本をレビューする1冊目は、『南のまほろば 観光ガイドブック』。発行された2002年の時点でも、一般にガイドブックといえば、行きたい・食べたい・買いたい・遊びたい・泊まりたいを喚起する写真にあふれたものだったように思うが、この本にはそんなウキウキした雰囲気は皆無。文字だらけで読み応えがある、質実剛健な「案内書」だ。
3部構成で、第一は自然について。各島の面積や気象、地形、星座、生き物、農業などを紹介する。第二は歴史と文化。先史時代から琉球文化圏に入り、戦争に至るまでの歴史、民話や民謡、織物、食、民家、祭祀などの文化、文化財や名勝などが詳しい。三つ目は観光情報。残念ながら、というか、ガイドブックの宿命で、観光情報は発行から時間が経っているのであまりあてにならないが、第一と第二の詳しさは辞書級だ。
八重山でわからないことが出てきたら、まずこの本を開く。
たとえば八重山民謡を唄っていて、しばしば行き詰まるのが方言の発音。そこで「八重山方言」の項目を開くと、発音記号での説明から例示まで詳しい。
八重山方言のイ〔i〕段音は国語のイ〔i〕段音に通じるの外にエ〔e〕段音に通じることが多い。エ〔e〕段音に通じる例
イビィ えび(蝦)
『南のまほろば 観光ガイドブック八重山』p.127
ジン ぜん(膳)
キー け(毛)
ニー ね(根)
同じく民謡を唄っていると、近世のいろいろな役職の役人が出てくるのだが、位の順番などいちいち覚えられるものではない。それでも気になるときは「八重山蔵元」の項目を見て確認する。またすぐに忘れるけれど、いつでも確認できるのは心強い。
項目が充実していて、説明が詳しいだけでも便利なのに、随所に参考文献まで記されているからありがたい。親切この上ない。この参考文献を見て、のちに入手した文献がいくつもある。
執筆者はそれぞれの分野で長年、研究を重ねてきた人々とのこと。ページごとに段組も文字間も違うし、読みやすさもポップさもないけれど、知が詰まっていることは一目でわかる。
書誌情報 『南のまほろば 観光ガイドブック八重山』 発行・編集:八重山観光ガイドボランティアの会/社団法人石垣市観光協会 2002年7月発行 1500円+税(2016年に石垣島の山田書店で購入) |