3.箏を迎えるために、部屋を片付ける

箏一式、取り揃えて送っていただくことになった。そうと決まれば、迎え入れる準備をしなければならない。

事前にお聞きした情報では、箏は湿度に敏感で、長さはおよそ180cm、幅は30cm、立てかけても保管できるとのこと。

立てかけて保管するしかない。

わたしの部屋は5畳ちょっと。出入口と窓を避けると、壁際にベッド、向かいの壁際に本棚があり、その間はせいぜい120cmしかない。はまり込んで演奏はできるが、常時寝かせておいては足の踏み場がなくなってしまう。

そんな狭い部屋にも関わらず、そのころは90cm幅の本棚が2架あって、1架は処分しないと、立てる場所すらなかった。箏が船便で届くまでの1ヶ月弱で、1架分の本を処分したり、移動したりし、本棚を解体して処分し、残った本棚と壁の間に箏を立てかけるだけのスペースを確保した。

そう、東京で箏を習う一つ目の障壁がこれだ。お屋敷に住んでいるならいざしらず、わたしのように狭い賃貸の集合住宅に住んでいる場合、スペースの確保は大問題だ。180×30cmといえば、家具みたいなサイズだ。痩せ型ノッポな同居人が1人増えたとも言える。その人を抱きかかえて、スムーズに寝かせたり立たせたりできる広さが必要なのだ。

二つ目は、音出しができること。幸い我が家は、音出しは問題がなく、三線を弾きながら唄ってもトラブルになったことはないので、この点はクリアしていた。三線を習っている仲間の中には、自宅で音出しができないために、レッスンの日しか演奏できなかったり、カラオケや河川敷に行って練習している人もいる。

箏もケースに入れて持ち出すことはもちろんできる。だが、車移動が必須。車があって、音出しのできる場所を借りられるなら、それでもいいかもしれないが、レンタル料がかかる。複数人集まるならレンタルするかいはありそうだが、わたしのように師匠や同門の人と離れている場合、自分一人のためにスペースをレンタルするのは現実的ではない。試したことはないが、三線と違って、カラオケや河川敷では演奏しづらいと思う。車を持っていないので、往復のタクシー代もかかるのだから、偶然ながら音出しのできる物件に住んでいてよかった。

ちなみに石垣島で対面で師匠のレッスンを受けるときは、師匠の箏を借りる。コンクールに出場する際も、現地で箏を借りる。どうしてもこの箏でなければ、という退っ引きならない理由がない限り、痩せ型ノッポさんを連れて旅をすることはない。

わたしも都内での発表会や音合わせに、痩せ型ノッポさんを連れて出たことはあるが、半径30km圏内だ。助手席のシートを倒して車の左側に寝かせるか、運転席と助手席の間に滑り込ませるか。後者だと運転手の左手に当たらないように、助手席に乗って箏を支えている。ワゴン車ならすっと入れられるので、タクシーはできるだけワゴン車を頼むようにしている。

そんな痩せ型ノッポの箏とのご対面を果たす前に、せっせと部屋を片付けた日々が懐かしい。

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