5.箏到来、何をするにも独り|八重山箏はじめ

箏一式が届いた。集合住宅の狭い外階段をのぼり、狭い外廊下をすり抜け、玄関にたどり着いた。配達員の呼び鈴で玄関扉を開けると、家具扱いの配送ため、梱包材をその場ではがして持ち帰ってくださるのだという。

こうして、プチプチやダンボールを脱いだ中身だけが、我が家の玄関から廊下に渡しかけられた。いざ、廊下(2mもない)の突き当たりの、我が部屋へ入場である。

思っていた以上に、箏は長かった。部屋が狭かった、とも言う。向きを変えるにも、箏を横に水平にしたまま動かせるスペースはなく、箏を立てて、照明にぶつからないように気をつけながら、向きを変え、下にものはないか、上から下ろすのに何かにぶつけないか気にしつつゆっくり床まで下ろす。家の中を、何かものを持って移動するときに、ここまで注意深くなることはまずなかった。それがこれからは日常になるのである。

しかし、思っていたよりは、箏は軽かった。木材の中でも軽い桐材で、共鳴させるために中は空洞である。桐の箱を持つようなものなので、腰への負担はほとんどない。それは助かった。

受け取った報告とお礼を姉弟子にLINEで伝えると、調弦をしてみるようにと返信がきた。箏を床に置き、絹の着物地で作られた油単と呼ばれるカバーを剥ぎ、箏の頭部にあたる右端を持ち上げて鳥居台を差し込み、威風堂々、姿をあらわに箏が横たわった。

13本の弦は奥から、一、二、三、四、五、六、七、八、九、十、斗、為、巾。チューナーを使って、それぞれの弦の音がぴったりになるように、琴柱を立てていく。

チューナーといえば、三線を買ったときにおまけでついてきたものを持っていたが、それまで使ったことがなかった。三線の師匠は、調子笛を使って、自分の耳で正しい音を捉えられるようになるべしという考えで、チューナーの使用が厳禁だったのだ。

でも、箏では師匠も姉弟子も、チューナーを使いなさい、と言う。まして独りで練習するわたしは、チューナーを使わなければ正しい調弦ができないのだから、使わないという選択肢はない。

三線で禁止されていたために、どこか背徳的な気分になりながら、チューナーをセットし、琴柱の位置を調整しながら調弦していく。1弦ごとに1音ずつずれるのではなく、5弦で1オクターブになるので、間引いている音がある。その間引き方によって調弦のパターンがあるのだが、初日は本調子の本調子を立てていった。強引にドレミで言うと、ファ、シ、ド、レ、ファ、ソ、シ、ド、レ、ファ、ソ、シ、ド。

音の高い、巾から弾いて音を確かめていく。たしか、親指で弾いていたような、という朧げな記憶から巾、為、斗、十、九……と鳴らしていくと、うん、それっぽい。きれいな音色。右手で弾いて、左手にスマホを持って、動画に撮った。そして、姉弟子に送った。調弦、できましたよ〜(ふふん)と、言葉にはしないものの、わりと自信たっぷりに。

しばらくして、返信がきた。姉弟子の声入りの動画だった。

「調弦はできています。でも手の形がダメです。澪さんの手は指が開いています。手は卵を包み込んで持っているように丸く、指は閉じて、力を入れずに親指を弦に当てます。澪さんのは音が強すぎる」

……初ダメ出し。それも連チャン。

ほんの1時間前の、自信満々だった自分が恥ずかしい。褒めてもらえるとどこか思っていた自分が恥ずかしい。

いざ初レッスン!などという決意を抱く間もなく、すでにリモートレッスンが始まっていたのだった。

続きは、6.リモートレッスンの先駆け|八重山箏はじめ

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