箏の弦の張り替えから伝統楽器の行末を考える

新しいお弟子さんを迎え、お弟子さんが中古の箏をネットで購入しました。わたしにも昨年4月に知人から譲っていただいたままになっていた生田箏があったので、2面まとめて弦の張り直しを楽器屋さんにご依頼しました。

その日、職人さんとわたし、見学のため2人のお弟子さんの計4人が、5畳と狭いわたしの部屋に集結。琉球用に張ってある1面を参考に、2面の張り替えをしていただきました。

1面13弦を張り替えるのに約1時間かかります。龍角の裏から弦を表に出し、龍尾側の穴から裏に通し、龍尾に引っ掛けて表側の弦と結びます。その結び目の位置の微調整により、張り具合も微調整できるそうで、琴柱がいい塩梅に立てられるように慎重に調整してくださいました。

楽器屋さんが、狭い部屋の中で座ったまま大きな箏を軽々と回転させるのも、慎重に弦を締めるのも、手際が鮮やかで、ずっと目が離せませんでした。琉球用への張り直しのオーダーは、わたしからしか受けたことがないそうです。稀にしかご依頼できないのに、快く引き受けてくださり、ありがたいばかりです。

張り直し中は、情報交換の時間でもあります。楽器屋さんのお仕事は楽器のメンテナンスばかりではなく、箏の運搬や舞台の設営、ときには舞台監督もされています。ヤマトの箏のお師匠さんたちには、結婚式や企業の新年会などで生演奏をするお仕事もあるそうで、運搬先はホールだけでなく、ホテルということもあるのだとか。

この話を聞きながら、和楽器の演奏家にはそうしたニーズもあるんだなぁ、うらやましいなぁと思いました。東京で、八重山の楽器の生演奏を、BGMとして求められる機会はまずありませんから。ですが、やはり景気に左右されるそうで、最近ではそうした生演奏の機会はめっきり減っており、すなわち運搬の依頼も減っているようです。

箏の本体や小物の材質や形、良し悪しについても教えていただきました。かつては象牙だった部品が、鯨の骨や水牛の角、べっ甲など、さまざまに材質を変え、いまやプラスチックが主流です。琴柱でも象牙なら一生モノでしたが、プラスチックとなると割れたり欠けたりするので消耗品です。プラスチックの利点は生産のしやすさと値段の安さですが、じわじわと値段が上がってきているそうです(材料費としても、メーカーが減っているという意味でも)。

演奏家が少なくなれば、楽器を扱ったり楽器にまつわるものを作ったりする人たちの仕事や伝承に暗雲が垂れ込める……。楽器屋さんの手さばきを見学させてもらいながら、前途洋々とは言い難い伝統楽器の業界の一端にいることを考えずにはいられませんでした。

明くる日の練習では、張り直していただいたばかりの箏をじっくり奏でました。華やかで大きな音の鳴る箏でした。これから大切に弾いていきます。

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