1.東京で八重山の箏を習い始める

八重山民謡の唄三線の教室に入門して2年が経った2018年、ひょんなことから箏を習うことになった。

八重山に行くのは、なんだかんだいってお金がかかる。もちろん仕事もある。だから秋のコンクールの時期ぐらいしか行けないのだが、その年は三線のコンクールの受験資格がなかったので、時期を外して、夏の豊年祭に行こうと計画していた。

その計画を三線の師匠に伝えたところ、せっかくなら石垣島で箏を体験してきてはどうか、という話になった。

いつか、三線の修練に一区切りがついたら、次は箏を習いたい、とは考えていた。他の選択肢は笛か太鼓。どちらも自分に向いている気がしなくて、特段、箏に惹かれていたわけではなかったけれど、いろいろな角度から八重山民謡を見たら楽しいだろうな、という程度の理由だった。なにせいまの八重山民謡界には箏の奏者は決して多くなく、正直なところ、その時点では箏の音色をよく知らなかった。

そこに「体験してみては」というお声がけがあったから、「ぜひに」とお返事した。その返事の仕方が、存外に熱っぽかったのかもしれない。三線の師匠が橋渡しとして箏の師匠と電話でお話しているうちに、いつの間にか入門することが決まっていた。追って三線の師匠から「入門を受け入れてくださいました。夏に石垣島に行くまでに、箏を準備しなさい。秋のコンクール受験を視野に入れて、稽古に励んでください」というようなメールがきた。

ぶっ飛んだ。出先で読んだメールだったけど、「ええぇぇっ」と声が出た。

いや、だって、箏の音をほとんど聞いたことがないぐらいだから、体験できるならしてみよっかなぁ〜というノリだったのに。
師匠は石垣島、わたしは東京で、どうやって習うの?
てゆうか、箏って想像するだに高そうなんだけど。

すぐに三線の師匠に電話をしたけれど、「受け入れてもらえてよかったね。がんばってね。大丈夫、大丈夫、東京でもできるよ。でもとても真面目な先生だから、真剣にやりなさいね」とやけに明るく前向き。聞けば以前にも、東京で箏を習い始めた人(同門の先輩)がいたのだ。その人は数年で石垣島に移住してしまい、石垣島で研鑽を積んで箏の教師免許を取得していた。わたしが入門したら、流派では東京で箏を弾くただ一人になるという。

本人不在のところで重大なことを決めてしまうなんて、と出かかった言葉は飲み込んだ。伝統芸能の世界はそんなものかもしれない(いま思えばそんなことはない)。あれこれ考えるより突っ走ってみよう、と数分で腹を決めた。

ものの1時間ぐらいで、希望と多難に満ちた箏道を歩み始めることになったのだ。

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